「最近、お店に冷やした赤ワインはありませんか?」というお客さんがよく来られるので、ある種のワインは冷蔵庫で常に冷やすようにしています。
しかし、なんでもかんでも冷やしたら旨いというものでもないと思います。
通常、赤ワインは室温というように言われていますが、フランス、特にパリは日本よりも寒いので、日本とフランスの室温は異なります。
あちらの室温というのは、日本より若干低い温度であると考えてもらえればいいので、特に夏などは赤ワインでも少し冷やしたほうが美味しいわけです。
まあ、ワインの種類によってその調度良い冷やし具合というのもちがいますから、このあたりはワインを買う時に酒屋さんに聞いてください。だいたいの傾向としては、ボルドーよりブルゴーニュ、ブルゴーニュの中でもボージョレーは特に冷やした方が美味しい、またアンジェの赤なども冷やしたほうが美味しいとされていますが、例外もたくさんありますので、これはあくまで、だいたいと考えていただいた方がよいです。
赤ワインをあまり冷やさない大きな理由の一つが赤ワインの渋み成分であるタンニンがあげられます。
タンニンは唾液の粘性をなくしてしまう働きがあり、それがシガシガとした渋みのもとになりますが、冷やすことで、タンニンが強く働き、渋みが強くなりすぎる場合が多いのです。
したがって、渋みの弱いワインのほうが、冷やすのに向いていると思います。
私、個人の好みで申しますと、夏は軽めでしかも甘味ののったブルゴーニュのコート・ド・ニュイあたりのワインを冷やして飲むのが好きですが、そうそうデイリーに飲むわけではないので、オーストラリアなどのちょっと安いピノ・ノワールでやります。チリのピノ・ノワールなどは、夏場にごくごくと飲むにはうってつけです。あと、カリフォルニアのジンファンデルで造った赤も冷やして飲むと旨いですね。屋外でバーベキューをやりながら、キンキンに冷やしたジンファンデルをゴクゴク飲むのは実に旨いです。
さらにローヌの南部やラングドック、プロヴァンスで栽培されている、葡萄グルナッシュを使用したワインもこの季節冷やして、グイグイやりたいワインの一つです。全体的に見るとやはり甘味が強く、渋みがおとなしいワインの方が良いのではないかと思います。冷やすと甘味は控えめになり、渋みは強調される傾向があるように思います。したがって若いポイヤック村などのタニックなワインはあまり冷やさず、マルゴー村の繊細で軟らかく、甘味のあるワインはそれよりも冷やした方が美味しいと感じます。
人間の味覚から言うならば、おそらく体温と同じ状態の液体が一番味が分かるのではないかと思います。なぜなら、熱いとか冷たいとかの情報がないだけ、味覚の情報だけがクリアーに伝わってくるからです、ただし、味わいの中の酸に問題があります。
酸には暖かい状態で美味しく感じる温旨酸(おんしさん)と冷たい状態で旨いと感じる冷旨酸(れいしさん)があります。赤ワインはマロラクティック発酵によって温旨酸系の乳酸が多く、白ワインは冷旨酸系のりんご酸が多く含まれています。特に若いワインはりんご酸が多く、熟成したワインは乳酸が増えてきていますので、年が経つにつれて、飲み頃温度が上がっていく傾向があります、年よりの冷や水という事ですね。しかし、年と共に甘味が出てきたり、渋みが軟らかくなったりもしますので、問題はより複雑になってきます。まあ、最後は好みでしょう。