酵母について今回は書たいと思います。
アルコール発酵にとって酵母は無くてはならない微生物です。
全てのアルコール飲料は酵母によってつくられます。
酵母は糖類を食べて、アルコールと炭酸ガスを排出します。
この時、アルコールと共に芳香成分であるエステルやその他の有機物を排出
し、それが出来上がるお酒の香味に大きな影響を与えます。
■不死の生物
酵母は細胞を一つしかもたず、分裂増殖(正確には出芽増殖)する生物ですが、こういった生物には寿命というものがありません。
一つの酵母は一定の条件が揃い、成長がある段階になると、自ら二つに分かれ半分の大きさになり、そこから再び成長をはじめます。
そして再び、成長のある段階にくると分裂、ということを条件さえ揃えば永遠に繰り返すため「寿命」というものがないのです。
したがって、現在存在するすべての酵母は、最初に誕生した酵母と同じ個体であるどころか地球上で誕生した最初の単細胞動物と同じ個体でもあるということが言えるのです。
なんだかか雄大な話になってきましたね。
しかも我々のような多細胞動物も元は単細胞動物から進化したことを考える
と、酵母は我々のご先祖さまと言う事ができるのです。
■酵母の変化
しかし、酵母の性質も、環境に大きく影響を受けます、例えば、酒母を造る時最初の段階は低温にしてわざと酵母にとって厳しい環境にします、いわゆる「打瀬」(うたせ)期間です。
この厳しい環境を耐え抜くことで、酵母は強い生命力を獲得して健全なもろみをつくりだします。
また酒母の後半は「枯らし」という期間を設けます。
この時、酒母の中はすでに高い濃度のアルコールが存在していますので、これも酵母にとっては厳しい環境です、この環境の中で鍛えられることで酵母は強い細胞膜を獲得して、アルコールの耐性能力を高め、醗酵の後半の高いアルコール度数のなかでも、さらに醗酵を続けることができるようになるのです。
■酵母の種類
酵母と呼ばれる種類の細菌は非常にたくさんの種類があります。
日本醸造協会では、その中でも、特に清酒の醸造に有効な種類を分離したり、交配させたりしたして、純粋培養し、頒布しています。
これを協会酵母と呼び、そのシリーズは番号を付けて識別されています。
協会酵母の第一号は、なんとうちのすぐご近所の山邑酒造(桜正宗)です。
現在、協会酵母は、15号まであります。
また、この協会酵母のそれぞれの変種で、醗酵時の泡がすくないものを「泡無し」酵母と称して、それぞれ、元になった、協会酵母の番号の後ろに「01」をつけて、7号の泡なしタイプは、「701号」9号の 泡なしタイプは、「901号」といった具合に、601、701、901、1001、1401の5種類が頒布されています。
●協会1号酵母
明治39年に桜正宗の酒母から分離された酵母で、強健で、高温での醗酵に適していますが、香は平凡で、ようするに普通酒用の酵母です。
大正5年から昭和10年まで「甲種瓶詰清酒酵母」として頒布されました。
●協会2号酵母
明治末期に月桂冠の新酒から分離された酵母で、真ん丸な形をしていて、顕微鏡でみるとすぐに見分けられたとか、香がよく、低温に適した酵母だったよ
うです。
●協会5号酵母
広島の賀茂鶴から大正12年頃に分離された長い楕円型の酵母で、香がフルーティで、中、低温に適していて、醗酵力が強く泡がねばる酵母だったようで
す。
大正14年から昭和11年頃まで頒布されました。
●協会6号酵母
秋田県の新政酒造で昭和10年頃に分離された酵母で醗酵力が強く、香もフルーティで旨味をだし、卵型をしているのが特徴で、昭和10年から現在まで頒
布されています。
●協会7号酵母
長野県の真澄から分離された酵母で、別名「真澄酵母」とも呼ばれています。
卵型をしているのが特徴で、協会6号とよく似ています。醗酵力は、協会6号ほどではないものの、香がよく、
●協会8号酵母
協会6号酵母の変種として昭和35年に分離された酵母で、協会6号酵母よりも発酵がゆるやかで、香りも良い、昭和38年から頒布、昭和52年に頒布が中止されました。
●協会9号酵母
熊本醸造研究所のもろみから分離した通称「熊本酵母」、低温での発酵に
適していて、酸の低い香高いお酒ができ、吟醸造りに適した酵母として、全国の酒造家が昭和43年から頒布されています。
俗に言う「YK35」とはY=山田錦(米)、K=熊本酵母、35=精米歩合35パーセントという略号で大吟醸酒の代表的な造りのひとつとなっています。
●協会10号酵母
東北6県の酒造場のもろみから分離されった酵母のうち、特に性質に優れたものを昭和52年から、協会10号酵母(明利小川酵母)として販売されています。
どの協会酵母よりも、酸の生成が低く、吟醸香も高いことが特徴です。
●協会11号酵母
昭和50年に協会7号から分離されたアルコール耐性の高い酵母で、性質はほとんど7号と同じですが、もろみの末期の高アルコールの中での死滅率が低く、このため、アミノ酸の生成が、低いのも特徴。
また野生酵母の出す毒素に対する耐性を、協会酵母の中で唯一獲得している酵母です。
●協会12号酵母
昭和41年、宮城県の浦霞酒造場から分離された酵母で、芳香の高い吟醸酒向きの酵母です。
●協会13号酵母
昭和56年頃、協会9号と協会10号の交配株から分離された酵母で、性質は協会9号と良く似ています、低温で短期発酵、もしくは低温での中期発酵に適した酵母です。
●協会14号酵母
金沢国税局管内で使われていた「金沢酵母」と呼ばれる一群の酵母の中から、吟醸香生成能力の高いものを選抜したもの、性質は協会9号と良く似ているものの、発酵末期で酵母の死滅が少なく、そのためアミノ酸を低く押さえる事が
できます。
吟醸や純米酒に適した酵母という事ができます。
●協会15号酵母
秋田醸造試験場が育成した、吟醸用酵母、秋田流・花酵母(AK-1)が平成8年から協会15号酵母として頒布されています。
甘い香りのカプロン酸エチルの生産性が高く、協会7号の変異種と考えられています。
泡が少ない、有機酸の生成が少ないという特性を持ち、低温長期発酵に向く酵母とされています。
■協会酵母以外の酵母
●秋田酵母
秋田流花酵母は、協会15号として認定されましたが、その他、兄弟酵母で、AK-2F、AK-3Fなどの酵母もあり、頒布されています。
これは本醸造や純米酒用の酵母で、二つとも協会9号程度の発酵能力と、協会10号以下の酸の生成が確認されています。
●佐賀酵母
協会9号を親として、品種改良が加えられ、より香り成分の生成能力の高い酵母として分離されています。
佐工試1号酵母(SK-1、ヒミコ酵母)などと呼ばれています。
●静岡酵母
静岡県内の酒造場から分離された、酵母HD-1とNO-2、それらの交雑から産まれたnew-5の三種類が県内の酒造メーカーに頒布されています。
HD-1 吟醸香が高く、やや酸の多い酒を生成(吟醸用)
NO-2 香りが軽快で、酸の低い酒を生成(本醸用)
new-5 香りが上品で、酸の低い酒を生成(純米吟醸用)
●長野酵母
もともと1960年代に県内酒造場から分離されたNP酵母が長野酵母と呼ばれていました、現在、流通しているのは、このNP酵母と協会901号酵母の細胞融合、および変異処理によって創出された酵母で、発酵能力が高く、香り成分の生成能力も高い吟醸用酵母として使用されています。
●広島酵母
広島県酒造協同組合から、広島2号・5号・6号・21号、そして、せとうち-21号の5種類が頒布されていますが、実際に流通しているのは、広島2号・21号・せとうち21号です。
広島2号は熊本県の西海酒造と広島6号の交配によって出来た、酵母で、穏やかな発酵経過を示し、広島の酒造りに向いていると言われています。
また、広島21号は、広島2号の泡無しタイプです。
そしてせとうち-21号は広島21号から、吟醸用として分離された酵母で、酸度やアミノ酸度を協会9号よりもやや低く抑える事ができる事と、ほのかに洋梨のような吟醸香を出す事が特徴と言われています。
●山形酵母
醸造場のもろみから分離した吟醸用酵母Y-1(YAMAGATA-1)株は昭和61年から頒布されています。
この他YK-0107とYK-291の2種類が平成3年から頒布されています。
■酵母の培養
協会などで頒布しているアンプルタイプの酵母以外の蔵内で保管している酵母などを使用する場合、冷凍保存している酵母から純粋培養して、酵母
をある程度増やしてやらなければなりません。
独自の個性を作る場合、蔵で独自の酵母を作り出す事は非常に強力な武器となると思いますが、その反面かかる手間や設備も大変です。
これは以下のような手順でするそうです。
麹を9時間以上かけて糖化させ、成分調整、ろ過、殺菌を経て純粋培養の無菌の麹エキスを造ります。
その麹エキスを培地として酵母の菌株を植菌し5日間培養して完成です。
■酵母の殺し屋
●キラー酵母
酵母の中には、高分子のタンパク質からなるキラートキシンという物質を分泌して、他の種類の酵母を殺してしまう酵母があり、これをキラー酵母と呼んでいます。
このキラートキシンに弱い酵母を感受性酵母、殺しも殺されもしない酵母を中性酵母と呼んでいます
協会酵母は、協会11号を除いて感受性酵母で、野生のキラー酵母に汚染された場合、香味に変調をきたす場合があります。