日本酒が土地としての特性を持つ原因は主に水です。それは清酒の成分の80%が水という事を考えるとこれは当然のことですが、では、どんな水からどんな酒が出来るのでしょう?今回は水がテーマです。

 水というにはこの世に存在する物質の中で最も不思議な物質だそうです。
 以下はライアル ワトソンの著書「アースワークス」からの抜粋です。

 まず第一に水は固体のそれより密度が高い。水以外のほとんどの物質は、固体だろうが、液体だろうが気体だろうが、温度が下がると容積が小さくなる。そして、普通なら容積が増すにつれて、密度が増すのに、水はそうはならない摂氏4度になるまでは普通りだが、そこで妙な事が起こるのだ。水は4度より冷えだすと、容積が増して軽くなり、零度に達する頃には容積が10%近くも増えている。

中略

理論通りなら、水は零下100度で凍り、そのたった10度上の零下90度で沸騰するはずた。つまり、水が通常の物質と同じ化学パターンに従うのであれば、水は我々の体内で沸き立ち、地上のどこにも固体の水も液体の水も存在しないことになる。

 と、基本的に不思議な物質のようです。その他、病人を瞬時にして直してしまう、「ルルドの泉」や養老の滝伝説など、水に関する不思議な逸話は世界各地に点在します。
 また、音楽を聞かせた水を植物に与えると、発芽率や、その後の成長もよくなるなどの報告もあり、水は振動などを記憶するのですないか?とも言われています。

 さて、酒の世界です。
 水は日本酒に限らず「酒」を造るのに必要不可欠なものです。「銘酒あるところに銘水あり」といわれるように、とても重要な原材料です。(そういえば、お酒の原材料の表示には水はありませんが)
 水の素晴しい特性の一つは時間さえあれば、なんでも溶かしてしまうことです。したがって水の中にはありとあらゆる物質が存在することが出来ます。この水の中に存在する微量な成分が酒造りに大きな影響をあたえるのです。
 醸造用水の世界は非常に難解で、専門書を読むと頭がくらくらしそうですが、基本的には硬水では、豊潤な酒、軟水では淡麗な酒が造りやすいそうです。
 ちなみに硬水とは水の中のカルシュウムやマグネシュウムなどのアルカリ土類金属などミネラルの含有率が多いもので、味的には「エビアン」が硬水で「南アルプスの水」が軟水という感じでしょうか。

 また、酒造りに必要な成分として硝酸があります。生モト系酒母育成において、硝酸は亜硝酸に変化します、亜硝酸は酵母の発育を抑制し、その間に乳酸菌がちょうど良いぐらいに繁殖しますので、菌のバランスをとる上で非常に重要です。ただ、あまりに多い硝酸は水源汚染の疑いがあるので、好ましくはないそうです。
 次にリン酸塩です、リン酸塩は酵母の増殖・発酵促進作に役立つ成分ですが、天然水中のリン酸は一般には究めて稀だそうです。
 「宮水」というのはこの二つの物質が適量に含有されている水で、生モト系の造りでは素晴しいお酒ができるのだそうです、こうゆう風に聞くと、現在のように宮水で「速醸造り」をするのはシロウト考えながらどうかと思うのですが・・・。

 次回は「宮水」についてです。


参考文献

「アースワークス」
   ライアル・ワトソン著内田美恵訳 筑摩書房
「灘の酒 用語集」 灘酒研究会